多剤耐性菌対策
- 多剤耐性菌の定義・特徴などについて
1 緑膿菌
2 多剤耐性緑膿菌(MDRP)
3 アシネトバクター
4 多剤耐性アシネトバクター
5 NDM-1産生菌
6 KPC産生肺炎桿菌
- 1 緑膿菌の特徴
(1) ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌に分類される
(2) ピオシアニン等の色素やo‐アセトアミノフェノン産生するので
緑色・特有の臭気あり
(3) 水系を主体に生活環境中に広く常在している
(4) 典型的な日和見感染を引き起こす病原菌の一つで、健康な人
には通常無害である
(5) 免疫力が低下した人では、エンドトキシンにより敗血症、多臓
器不全で死亡しうる
(6) ペニシリン、セファゾリン等の第一世代セフェム薬に自然耐性
を示し、テトラサイクリン系やマクロライド系等の抗菌薬にも耐
性を示す傾向が強い
2 多剤耐性緑膿菌(MDRP)
(1) 多剤耐性緑膿菌の定義
イミペネム、シプロフロキサシン、アミカシンの3種類の薬剤
全てに耐性の緑膿菌
(2) 多剤耐性緑膿菌の判定基準(感染症法における届け出基準)
抗菌薬 MIC(μg/mL) ディスク阻止円径
(mm)
イミペネム ≧ 16 ≦ 13
アミカシン ≧ 32 ≦ 14
シプロフロキサシン ≧ 4 ≦ 15
※どちらかの測定法で上記3 つの条件を全て満たした場合にMDRP
と判定される。
(3) MDRP 感染症の臨床的背景
@コンプロマイズドホスト(免疫力が低下した人)で感染症が
成立しやすい。
・挿管チューブや尿道カテーテル等など体内異物挿入例
では、菌群全体をコートして守るような膜であるバイオ
フィルム形成により菌の排除機構が障害されるので除菌
が困難
AMDRP 感染時に広域抗菌薬等投与するとMDRPを選択して
増殖を促す。
・カルバペネム系抗菌薬の長期間の投与が重要なリスク
B院内環境にいること自体が感染のリスクを高める。
・感染患者の排泄物や分泌物が汚染源となる可能性
・感染患者と同じ医療従事者の手指や器材などから
が菌に汚染され、それらを介して他の患者に菌を伝
播してしまう可能性
(4) DRP 感染症の治療
@ポリミキシンBあるいはコリスチン(Colistin)
・ポリミキシンBは内服と局所のみ、コリスチンは国内
未発売
A抗菌薬の併用療法
・アミカシン(amikacin)とアズトレオナム(aztreonam)
(5) 法的位置付け
・感染症法 五類 基幹定点
3 アシネトバクター
(1)アシネトバクターは広く環境に存在する
(2)院内の床等の環境や医療従事者、患者の皮膚から高頻度
に分離
(3)湿潤環境を好むが乾燥環境でも長期間生存可能
・3週間以上乾燥した環境で生き残った
⇒「グラム陰性のMRSA」
(4)アシネトバクターによる肺炎は、熱帯・亜熱帯の国(・クウェート
・トルコ・台湾・タイなど)に多く、暖かい季節(北半球では4-
10月)に多い
(5)病原性が強いのはアシネトバクター バウマニー(Acinetobacter
baumannii)
4 多剤耐性アシネトバクター(MRAB)
(1) 多剤耐性アシネトバクターの定義
@多剤耐性アシネトバクターを定義する世界的な基準は示
されていない
AJANISの基準に従うか、多剤耐性緑膿菌の基準を準用
する
B日本では、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノ
グリコシド系の抗菌薬全てに耐性を示す株とされている
(2) 多剤耐性アシネトバクターの判定基準
(JANIS,2009,特定の耐性菌判定基準 Ver.2.0 )
抗菌薬 MIC(μg/mL) ディスク阻止円径
(mm)
イミペネムまたは
メロペネム ≧ 16 ≦ 13
アミカシン ≧ 64 ≦ 14
シプロフロキサシン
(またはレボフロキサシン) ≧ 4
( ≧ 8 ) ≦ 15
( ≦ 13 )
※どちらかの測定法で上記3 つの条件を全て満たした場合に
MRAB と判定される。
(3) 1980年代後半から人工呼吸器装着患者の肺炎(VAP)の原因
菌としての認知された
・集中治療室で人工呼吸器装着患者の肺炎の起因菌
(4) 海外での多剤耐性株の検出状況
@米国: ・1990年代からMRAB によるVAPが急激に増加
・欧州と遺伝的に同等か近縁
Aアジア:中国や韓国、東南アジア等で感染症の多発報告
(5) 国内での多剤耐性株の検出状況
@福岡県(2008)、千葉県(2009)、愛知県(2010)などで輸入
例から検出
A今回は輸入例ではない例も?
(6) 治療
@コリスチンやチゲサイクリン:日本未承認
A併用療法 :βラクタム剤+アミノグリコシド剤など
(7) 厚生労働省の事務連絡で県への報告が求められている
5 NDM-1産生菌
(1) NDM-1とは
@これまで知られていないクラスBのβラクタマーゼ(メタロ
βラクタマーゼ)
Aメタロβラクタマーゼは、ペニシリン・セフェム剤からカル
バペネム剤まで全てのβラクタム剤を分解し、耐性をもた
らす
B本邦では、NDM-1以外のメタロβラクタマーゼが緑膿菌、
アシネトバクター等で既に報告されている
(2) NDM-1産生菌
@大腸菌や肺炎桿菌など
・日和見細菌に比べ病原性が高く、市中感染症の起因菌
となる
・腸内細菌としてヒトの腸管内に常在している
(3) NDM-1産生菌感染症
@健常人では発症しても宿主の感染防御機能が保たれてい
るため死亡率は低いが、免疫力が落ちている人では危険
A尿路感染症、肺炎、血流感染症、創傷感染などがある
(4) NDM-1産生菌感染症の治療
@コリスチン・チゲサイクリンの抗菌活性が強い
(本邦未承認)
A中等度耐性程度の薬剤も臨床では効果を期待できるの
で、分離菌の抗菌薬感受性を参考に抗菌剤の併用療法
を考慮
(5) NDM-1 産生株が検出された場合の対応
@ NDM-1 を産生する株が検出された患者は個室管理とし、
標準予防策や接触感染予防策を行って他の患者に伝播
しないようにします。
A NDM-1 産生株が便や喀痰などから検出されても感染
徴候がない無症状保菌者では、抗菌薬による除菌は行
わずに標準予防策接触感染予防策を励行します。
B NDM-1 産生株による感染症を発症した患者の場合は、
患者の病状を考慮して、抗菌薬療法を含む積極的な治療
を実施します。
C 患者の海外渡航歴及び渡航先での医療機関の受診歴
を詳細に聴取してください。
(6) 厚生労働省から国立感染症研究所へ検体を送ることを期間
限定で求められている
6 KPC産生肺炎桿菌
(1) KPCとは
・KPC遺伝子を持つクラスA のβ-ラクタマーゼ
(2) KPC産生菌とは
@現在は、殆どが肺炎桿菌であるが、他の腸内細菌科細菌
から検出されることあり、カルバペネム、アミノグリコシド、
フルオロキノロンの全てに耐性を示すことが多い
Aクラブラン酸の添加で活性が阻害されることもある
Bこれまでは、欧米、イスラエル、中国等で発見され、我が
国では輸入症例のみ
C多剤耐性の特徴が他の菌に移りやすいので感染管理が
困難になりやすく、治療も困難になりやすい
(3) 厚生労働省から国立感染症研究所へ検体を送ることを期間
限定で求められている